薄板を曲げて作られる「曲物」の中で一番ポピュラーな物がお弁当箱でしょう。木曽の曲物は400年の歴史を持っていて、使い勝手の良いこの形と軽さが気に入っているという方がたくさんいらっしゃいます。一つひとつ手作りするものですから同じものは二つとありません。漆とヒノキには優れた抗菌作用もあって、夏場など中に入れた食材が痛みにくいんですよ。
曲物とは、木の薄板を特殊な技法で円形や楕円形に曲げて、合わせ目を山桜の皮で綴じ、底をつけた器の総称です。形ができ上がったら、木の呼吸を生かすためにスリ漆を施します。これは下地の処理を施した後、直に生漆を塗布する方法です。代々伝えられてきた木工技術と漆塗りの技術が合わさって「木曽の曲物」はできているんです。
側板はここ木曽で育った良質の木曽ヒノキで、必ず天然木を使います。一般に流通している植林木は使いません。質感が全く違うんです。そして蓋板と底板には吸水性、保湿性のある木曽サワラを使っています。木を選ぶことは結構経験が必要です。木はすべて違うので、当然同じ板は一枚として存在しません。その優劣をしっかり見極めたうえで加工に入ります。
もともとは塗師屋(ぬしや:漆塗り職人)だったのですが、木工の後継者もいなくなってしまったために木工も手掛けるようになり、今では全工程を一人でやっています。
使われてこそ生きるのが木曽の曲物なので、あまり神経質になりすぎずどんどん使ってください。丁寧にさえ使ってもらえれば30年は大丈夫ですが、電子レンジにだけは入れないでくださいね。
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小島 貴幸(こじまたかゆき)